4.がんのことを職場や友達にどこまで報告する?

家族が病気になると、周りの人たちに報告することも家族の役目。
といっても、誰にどこまでのことを伝えたらいいのか……うむむ、どうしよう。

いくら2人にひとりががんになる時代といっても、聞いた相手は動揺してしまうでしょう。ましてや、「すい臓がん ステージ4b」。がんの知識が全くない人でも、想像力をかきたてるくらいセンセーショナルな言葉の響きです。
それに、夫は「男は黙ってサッポロビール(例えが古い)」なタイプで、「大騒ぎにしたくないんだよなぁ」と言います。ええ、私もできれば大袈裟にしたくないです。でも、ずっと内緒にしておくわけにもいかないのですわ……。

まずは、身内。
本当なら一番にお義母さんに伝えなければいけないのでしょうが、1年前に大きな手術をしたこともあってちょっと心配。日常生活はおくれるようになったものの万全とはいえず、身体のことを考えると伝えるタイミングを慎重にしなければ…。ですので、まずは実家で敷地内同居をしているお義兄さんに連絡しました。やはり「今すぐには言えないなぁ。タイミングを見て俺から話すよ」とのことで、義弟くんや親戚への連絡も含めてお義兄さんに全てお願いすることにしました。
一方、私の母は83歳と高齢ですが、元看護師ということもあって医療知識皆無な私にとって心強い存在です。時代は違っても、人体のメカニズムは変わりません。母には、すぐに連絡を入れました。

職場には、さすがに内緒というわけにはいきませんから、お店のオーナーには報告をしていました。オーナーの方も電話の向こうで言葉を失い固まってしまうほど、その衝撃の大きさは伝わってきていて「どこまでメンバーに話していいのか…」という状態。
ですよねぇ。どこまで情報開示するか……早急に夫と話し合わなければいけません。

そして、夫の友人や仲間の皆さんのこと。
私自身、夫の交友関係を全て把握しているか?といったら、お互い様とはいえかなり怪しいもの。しかも、飲食業界は一般的なサラリーマン以上に横のつながりが多い業界。入院によって余儀なく休職ともなれば、「どうした?」「何があった?」「なんだか、○○らしいよ」と噂が噂を呼び、広がってしまうのも時間の問題で避けられないでしょう。人の口に戸をたてられませんしね。それに、聞かれた側(お店のオーナー)もどう答えていいか困ってしまいます。なので、、、

ええーい、全部話してしまえ!
という結論に至りました。

「聞いて聞いてー」と宣伝するつもりは毛頭ないですが、内緒にしておくことで周りの憶測や詮索が正直めんどくさい(そこ?)。入院中ですから携帯に電話してくる人は少ないですが、メールやLINEなど「ある意味便利、ある意味面倒なツール」もある世の中。心配してくださる気持ちは有難いのですが、そう頻繁にピロピロ鳴られても……ねぇ(汗)ごくごく普通の一般ピーですらカタチは違えどこうなるのですから、マスコミにイチイチ張られてしまう芸能人の方は本当にお気の毒…。海老蔵さんが奥様のことで記者会見したお気持ちも、何となくわかる気がします。

幸い夫の場合は、「自分が窓口になるから」と言ってくださった友達がいてくれたので助かりました。彼は夫と20代の頃からの友人で、毎月ゴルフにも行っていた仲。同じ飲食業界ですし、私以上に夫の交友関係を知っている人です。もうひとり、出会いのきっかけはお店のお客様ですが、毎月のゴルフに行くくらい仲良くしていただいた方。仲良しゴルフトリオのおふたりには家族と同じように全てを伝えて、そこから先の連絡はお願いしました。そして、「もし聞かれたら、全部話してくださって構いません」ということも。

がんになったことを周りに伝えることでガンバロウと思える人、家族のみ共有することで穏やかに向き合える人、めんどくさいから話しちゃえという私たちみたいな人(笑)、いろいろなケースがあると思います。これも人それぞれ…と「それじゃあ、参考にならないよ」という話になってしまいますが、できるだけ負担やストレスにならない方法を選びたいものです。

当初の私は、夫婦ふたりだけというのもあって「全部私がやらなくては!」という気持ちが強かったです。でも、自分ひとりができる範囲なんて限られているんですよね。だから、抱え込まないようにして、周りの方々に甘えさせていただくことにしました。それは、私の友達にもいえていて、ずいぶんと愚痴を聞いてもらったり、背中を押してもらったり、アドバイスしてもらったり…と支えていただきました。特に私は、すぐ一杯一杯になってしまうタイプなのでなおのこと。個人的には、周りに話したことで救われている私がいました。

1.本人へのがん告知はどこまで?

がんがわかると、家族は先生から聞かれます。「ご本人にどこまで伝えますか?」と…。
早くも選択をしなければいけない現状を突きつけられます。

数年前、私たちの友人ががんでお亡くなりになった際、夫は「もしがんになったら、俺は全部知りたい」と言っていました。私も全部知りたい派。そのときは、「包み隠さず、全部伝えよう」とお互いに約束していました。
そうはいっても、何もしなければ「余命半年」という内容はヘビーです。いくら冷静沈着な夫でも、さすがに受け止めるには大きいのでは?…いやいや、そもそも全部って何?そこに、余命宣告は含まれているんだっけ?…でも、余命ってあくまでもデータだよね?データも大事だけど、そんな未来予測って意味ある?……頭の中が「?」だらけになります。

ちなみに、実父のとき(28年前)は誤診の末での発覚でしたので、がんということも伝えず内緒を貫きました。
義父の場合(7年前)、家族は「がんということも伝えたくない」と全員一致でしたが、担当医という人が「それでは、緩和ケアを行う上で支障が出る。患者さんになぜ治療をしないんだ?と聞かれたら、私はどうしたらいいのですか?信頼関係が失われて…」とグダグダ駄々をこねまして、義母も義兄も告知することに渋々承知しました。
正直「この医者はバカか!?」と思いました。「どうしたらいいって、それを家族に言っちゃう?そのくらい上手くかわすこともできないの?アホか!」と断固阻止したかったですが、私は次男の嫁という立場。義母と義兄がOKした以上、そこで口を挟むのはいかがなものかと従いました。そして、「末期の大腸がんで余命3カ月」と言われた義父は、その2週間後に旅立ってしまいました。

そんなこともあったからでしょうか。私は、とっさに「余命以外すべてを…」と答えていました。
まずは、先生から「事実」を伝えていただこう、と。そのうえで、本人が知りたいと思ったら聞くだろうし、知りたくないとしたら聞かないだろうし、そこは夫に委ねようと思いました。

というのも、私たち夫婦は子供に恵まれず、ずいぶん昔に病院を受診するかどうかで話し合ったことがあります。そのとき夫は、「もし俺に原因があるとわかったら、その事実を一生抱えられる自信はない。物事には白黒はっきりさせることが必要なこともあるけど、グレーはグレーのままでいいこともあると思うよ。」と言いました。結果として病院に行かず現在に至っているわけですが、この余命も彼にとってグレーゾーンかもしれない、と思ったからです。

残りの人生、やりたいことするためにも余命宣告をした方がいい…という意見もわかります。
でも、こればかりは正解は存在しなくてケースバイケースなんだろうな、と思います。本人の性格、行動パターン、物事に対する考え方や対処の仕方などによってそれぞれ違うと思いますし、違っていて当たり前。みんなそれぞれ違うのです。本人が知りたくないと思っていることを伝えるのは、周りのエゴでしかないのでは?と思います。

しかし、後で詳しい内容を書きますが、「余命宣告をしないのは本人のためになりません。伝えた方がいいですよ。」とご丁寧に勧める医師がいることも事実(実際に私は言われました)。幸い夫の担当医の先生は、「自分の立場では決められません。ご本人様を一番よく知っているのはご家族ですから」と言ってくださったので助かりましたが、デリケートなことだけに慎重に選びたいものです。

もちろん余命宣告を否定しているのではありません。もし私なら、間違いなく「で、私はいつまで?」と聞くでしょうから…。正解はコレ!それは間違い!というマニュアルがあって、それに従えたらどんなに楽でしょう。でも、マニュアル通りにいかないのが人生。だからこそ、たくさん悩んで、いろいろ迷い考えながら選択していくのではないでしょうか。

案の定、夫は先生の説明を一通り聞いて「何か質問はありますか?」の問いかけに「別に何もありません。」ときっぱり。ああ、やっぱりな、と思いました。でも、結構鋭い夫でもあったので、「そこまでの症状で余命について言わないということは、そういうことね。ははーん、隠しているな。」と勘付いていたのかもしれません。それは、本人のみぞ知る、でしょう。

余命については結局最後まで話すことはありませんでしたが、夫が「やりたい」と言うことを可能な限り実現できるようにサポートしていこうと思いました。そして、私自身「データなんかに左右されてたまるものか!」と強く思ったのです。