16.「俺、FOLFIRINOXやってみる」夫の決断とその理由

ここ最近、Google先生の何かが調整されたようで、急にアクセス数が増えてビビッています(笑)
と同時に、それだけ情報を必要としていらっしゃる方が多いということで、ノロノロ更新してる場合じゃないぞ…と反省モード。
ここに夫がいたら、「ダラダラ長く書いてるからだ」と言われそうですね(汗)
「おーい、まだなの?」とイライラさせてしまっているかもしれませんが、ゆるりとお付き合いいただけますと幸いでございます<(_ _)>

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さて、この翌日、病院へ行ったのは夕方近くになっていました。
どうやら昼間、友達がお見舞いに来てくださったようで、抗がん剤のことも話したそうです。
ひとりは「絶対ヤダ!やりたくない」派、もうひとりは「可能性があるならやってもいいかも!?」派だったとか。
やっぱり、この手の話になると意見は分かれるものですよね。

「でさ、やろうと思うんだよね、俺。抗がん剤」
「うん、どっちの抗がん剤するの?」
「何だっけ、フォルなんちゃらって方……ほら、学会で発表されたっていう」
(おーい、名前くらい覚えようよ~)
「マシマシのFOLFIRINOXね。めっちゃチャレンジャーじゃん」
「そそ、それそれ。FOLFIRINOX、とりあえず1回やってみるよ。やるなら、そっちにするさ」
「何それ?とりあえずって…」
「副作用がヒドかったらイヤじゃん。やってみて副作用が辛かったら、もうしない」
「うんうん、そういう選択もアリだと思うよ。そしたら、夜の回診のとき先生に言おう」

夫は、競馬やオートレースといったギャンブルが大好き。
奇跡が起きた女性の話で「もしかして、誘導しちゃったかな!?」という思いもありますが、事実は事実です。
ギャンブラーはギャンブラーらしく(?)、命を賭けて人生最大の勝負に挑む…という感じでしょうか。

よーし、ここはひとつ大穴狙いでいこう。
やってやろうじゃん。

夫も私も、そんな気持ちでした。

そして、もうひとつ理由があります。
それは、この病院でこれまでFOLFIRINOXの症例がなかったこと。担当医の先生も初、ということ。
多くの人は、「やったことないんでしょう?それって怖い。大丈夫?」と思うのかもしれません。
もし手術なら私たちも同じように思いますが、相手は抗がん剤=点滴です。

妙に慣れちゃっているところより、初めての方が病院側も慎重にやって下さるだろう、と思ったからです。
(ああああ、またエラそうなことを……ごめんなさーい)
もちろん先生への信頼がベースになっていますし、夫が「この先生の症例第1号になろう」と思ったことも嘘じゃありません。
たとえどんなことでも、第1号って気分がいいものです。(え?そこ?)
あわよくば夫にも奇跡が起こったときは、先生には学会で発表していただこうじゃん…という気持ちもありました。

誰だって経験していないことをするのは、不安ですし怖いです。
しかも、身体にとってリスキーな抗がん剤マシマシ。最後の4剤目「5-FU」なんて、46時間投与し続けるのですから、えらいこっちゃーですよ。
私たちもそうですが、先生も、病院スタッフの皆さんも同じなのかもしれない。日テレが「はじめてのおつかい」なら、こっちは「はじめてのFOLFIRINOX」ってもんですよ。わはは。

わずかカーテン1枚で仕切られた6人の大部屋でこんな会話をしていたワケですから、周りの患者さんは「コイツら超ポジティブ!一体何なんだ?」とか思われていたかもしれないですね(笑)
でも、ポジティブなんかじゃないんです。どんなに拭っても、次から次に沸いてくる「不安」や「怖さ」を排除したいから、せめて言葉くらいは前向きで楽しいことを吐き出そう、という気持ちが強かったです。自己暗示、それしかありません。

そして、夜の回診で来てくれた先生にもFOLFIRINOXをやる旨をお返事しました。
「お、決めたんですね。FOLFIRINOX」
「先生の第1号だからね、俺。よろしくお願いします」
「ははは、わかりました。では早速、僕は薬を取り寄せたり、準備に入ります。これから、ポートを埋め込む手術もあるし、薬剤師の方から説明もありますし、質問があったら何でも聞いてください」
「先生、これカミさんが見つけてきたんだけど、俺と似たような人がFOLFIRINOXで手術できるようになったみたいで」
あら、自分では読んでもいない紙を、先生に見せちゃってるし。

「今度の外科学会で発表されるらしい、ですよ。先生も、俺のケースで発表しちゃえば?な~んて」
「はははは、そうなれるように一緒に頑張っていきましょう」
いつもより珍しく口数が多く、笑顔だった夫。先生とがっちり、男同士の握手をしていました。

さあ、いよいよFOLFIRINOXがはじまります。
それに向けて、周りが何となくバタバタと慌ただしくなってきました。
夫は、来たる日に向けてとにかく食べること。そして、私ができるのは「上手くいきますように」と祈るだけです。

世の中は、まだ賛否両論いわれている抗がん剤問題。
やるのもひとつの選択、やらないのもひとつの選択。どっちが正しくて、どっちが間違っているとかどうでもよくて、今はまだ「わからない」のが現状なのでしょう。たとえエビデンスがあっても、「効く人」もいれば「効かない人」もいるのが現実(難しいすい臓がんですしね)。だから、多くの人が真剣に迷うし、悩んでいるんですよね。そして、選択をする。現代の医療をもっても、まだこの段階、これが現実なのだと思います。

それに、どんな決断をしたとしても、物は考えようでポジティブにもネガティブにもなります。
当時こんな強気だった私でも、夫がいなくなった今、ごくたま~に「抗がん剤をしなかったら、もっと長く生きられたのかな?」と思ってしまうことがあります。でも、そういうときは、だいたい私の心が弱っているときなんですよね。

そういう状態に陥ったときは、「いーや、あのときちゃんと考えたし、ちゃんと話し合って決めたでしょ」「いかんいかん。あーー、今私の心が弱っているぞ。だから、ロクでもないこと考えちゃうんだ~」と開き直るようにしています。ネガティブになろうと思ったらいくらでもなれますし、キリがありません。そんな精神状態で、いいことあるわけないじゃんって思うのです。だから、開き直ってゴミ箱にポイッ!これの繰り返しなのかなぁ、なんて思ったりします。

さて、病院から戻って来た私は、すぐお義兄さんに電話で報告をしました。
「え?やるの?マジで?そっかぁ。すげーな、○○。俺なら、絶対に無理だ。うん、ムリムリムリ。○○は、勇気あるねぇ。で、いつやるの?俺、休み取って行くから決まったら教えて」
当時、一番ビビっていたのは、お義兄さんだったようです(笑)