6.食事ができるようになるための胃空調バイパス手術

夫のケースは、手術不可能&十二指腸に浸潤しているので放射線治療も不可能&肝転移アリでしたので、やれることといえば化学療法のみ。でも、その目的はがんの進行を少しでも遅らせることです。が、抗がん剤をやるにも体力が必要で、食事が摂れないことには次のステップに進めません。(夫の詳しい症状はコチラをどうぞ)

B大学病院から出戻った夫に対して、担当医の先生はすぐに胃と腸をつなげるバイパス手術を準備してくださっていました。この先生はやることなすことすべてが早く、このスピード感も私たちが気に入っていたことのひとつ。ですが、出戻り翌日に手術というのはさすがに驚きました。聞くと、「だって、B大学病院の手術予定日が4月1日だったでしょ?だから、同じ日に突っ込んじゃいましたから(キリッ)」……突っ込んじゃいましたって、そんな簡単に手術って入れられるの?と思いつつも、1日でも早くゴハンを食べたい夫としては有難いことこのうえなしです。

夫が受けた手術の正式名称は、「腹腔鏡補助下胃空調バイパス手術」というもの。
大量出血の原因となった十二指腸の腫瘍部分に食べ物を通さないために、腹腔鏡によって胃と腸をダイレクトに繋ぎあわせる手術です。夜には手術そのものの説明やリスクの他にも、次のような説明を受けました。

・予定は腹腔鏡下でも、癒着など実際の所見次第では開腹術に切り替えることもあること。
・現段階では胆管の詰まりは大丈夫そうだけれども、すい臓がんは胆管が詰まりやすい。状態によって、胆管と腸をつなげる必要がある場合(胆管空腸吻合)はお腹を開ける。
などなど。

こちらは手術説明・同意書(患者控え)の裏なのですが、先生が説明しながらボールペンでパパッと描いてくださったもの。

がん告知のときもそうでしたが、この先生は説明が丁寧でわかりやすい。それに、絵が上手い。以前、何かの記事で「腕のいい外科医は絵が上手い」という内容を読んで目からウロコだったことを思い出し、先生への期待感が高まったのは言うまでもありません。

といっても、私たちはど素人です。特に、今回の夫のことに関しては「納得できるまで何でも聞く」と私自身が決めていましたので、素人なりでも自分で調べて疑問に思ったことはどんなことでも手帳にメモしたり、調べてもわからないことはプリントアウトしていつでも質問できるように準備もしていました。

それに、折しもこの時期は群大の腹腔鏡手術のことがニュースで話題になっていたとき。今回の手術を調べてみると、難易度は低いようですし、やっぱり開腹手術はできるだけ避けたい。といってもご時世的に、「腹腔鏡」というだけでビビッてしまうのも素人ゆえの心理。黙っていられない私の性格上、こんなことまで聞いてしまいました。

「あのー、ぶっちゃけ腹腔鏡ってリスク高いのですか?」
「リスクは手術の内容によって違いますね。ご主人の場合はよくある手術のひとつですし、危険なものではないですよ。また、どうして?(奥さん、いろいろ調べてわかってるでしょう?的なニュアンス)」
「ええ、一応私も調べて理解してみたのですが、今騒がれている群大の件があるし気になっちゃって…」
「あ~、アレね。はははは、ご主人のとは全く別。まぁ、心配しちゃう気持ちはわかりますし、どんな手術でもリスクなしというのはないわけで。でも、今回のはウチの病院でも症例数は多いし、心配しなくて大丈夫!」
「それを聞いて安心しました。いえね、腹腔鏡=危険という報道ばかり目にしてつい。あはは、すみませーん。変なこと聞いちゃって…。」
「いえいえ、少しでも不安なことがあったら何でもどうぞ。はい(o^―^o)」

思い返せば、我ながらずいぶんバカで失礼な質問をしたな、と思います(笑)でも、このときは真剣だったのも事実で、ちょっとしたモヤモヤもクリアにしたいという気持ちの方が勝っていました。この先生だからこそ話しやすかったというのもありますが、「こんなことを聞いたら怒られるかな?」「こんなことを聞いたらバカだと思われるかな?」という気持ちよりも「わからないので教えてください」という気持ち。

見方によっては、“面倒な患者家族”だったかもしれません。でも、心のどこかで「たとえ小うるさいと思われても、私が思われる分にはどうでもいいや」という開き直り(?)もあった気がします。その一方で、相手の時間を使って教えていただくからには自分もちゃんと調べて少しでも知識を増やす、ということも心がけました。もちろん、知ったかぶりをする気はさらさらなくて、あくまでも夫のすい臓がん対策プロジェクトに「参加させていただく」という姿勢が基本。そんな私に快く応えてくださった担当医の先生には、心から感謝しています。

さあ、約1カ月近く続いた絶食ももうすぐ終わり。痛い思いはしちゃうけれども、もうすぐ…もうすぐだからね。そして、「どうか明日の手術が、腹腔鏡だけで済んで開腹になりませんように…」と祈ることしかできませんでした。