17.FOLFIRINOXに向けた準備あれこれ

「FOLFIRINOXをやる」と決めた夫。
それに向けて、いろいろと準備がありました。

まず、CVポートの埋め込み(正確には「皮下埋め込み型ポート」というようです)。

すべての抗がん剤治療で行うのかどうか私は知りませんが、トータル50時間にも渡って薬剤を投与するFOLFIRINOX。
でも、CVポートを埋め込めば手足も自由に動かせるし、点滴漏れも防げるのだそう。
うんうん、父のときは抗がん剤こそしませんでしたが、普通の点滴をするだけでもルートが取れなくなって大変でした…。

埋め込みには手術が必要だそうですが、部分麻酔でちゃちゃっと終わるレベルとか。
「また手術か…」と言いながら、夫は面倒くさそうに同意書にサインをしていました。

そして、その手術は私が立ち会うまでもなく
本当にちゃちゃっと終わってしまいました。

いつものように、夕方になってのこのこ病院に行くと、「今日、ポート入れた。ここ…」と右の鎖骨部分を指差す夫。
見ると、鎖骨の少し下がぽこっと盛り上がっていて、そこはまだガーゼで覆われていました。
「ええええええ!?もう入れちゃったの?見たかったのにぃ~」と訳のわからないことを言いながら、盛り上がっている部分を指先で押してみたい衝動にかられて手を伸ばしたところ、「やーめーろー」という声。さすが夫、私の行動パターンをよくわかっています(笑)
部分麻酔だし、術後も痛くないらしく、ちょっと何かが入っている違和感があるくらいだとか。

他にも、薬剤師さんが病室に来てくださって、FOLFIRINOXの説明や注意点など、一通り抗がん剤のレクチャーを受けました。
優しい口調で美人の薬剤師さんからの説明で、夫は上機嫌。珍しいくらい積極的に質問もしていました。やっぱり男は美人に弱い…。ん?女だってイケメンには愛想良く振舞いますかね……ふふ、どっちもどっち、お互い様ってものです(笑)

この薬剤師さん、美人だけでなく、説明の仕方もわかりやすくてとても丁寧でした。
怖い怖い副作用のことも、さらっと笑顔で(マスクをしているので定かではありませんが)言ってのけます(笑)
実際に抗がん剤が始まる前から「不安なこと、ありませんか?」と何度か病室を訪ねてくださったり、抗がん剤1回目の当日にも顔を出してくださったほど。

もちろん、投与前の状態を知る採血はお約束ですが、いつものルーチンのなかでも何となく今までと違った空気を感じるように。
これから、一大プロジェクトがスタートする……実際に受けるのは夫ですが、それ以上に私の方が緊張してきました。

抗がん剤と聞くと、「ウッ!」と口を押えて枕元の洗面器に顔を埋めてウゲーっと吐いているイメージ。
FOLFIRINOXも吐き気の副作用は、マストのようです。
夫は、「吐き気が一番イヤだ」と言っていました。

私ができることといえば、買い物くらい。
いつ吐き気がきてもいいように小さな洗面器、何かのときに使える大・中のビニール袋、間に合わなかったときに向けて大量のタオル、鼻や口元用に使うための高級ティッシュ「鼻セレブ」も買わなくちゃ。

それから、夫はあまり毛深くなく、毛質が柔らかいため、ヒゲを剃るのはカミソリ派。抗がん剤によって血小板が少なくなるそうですし、万が一カミソリで傷をつくったら大変です。家電量販店にも行き、「ヒゲが柔らかくても引っかからずに痛くないものをください」と言って店員さんが薦めてくれた電気シェーバーまで買っていきました。

ただでさえ、狭いベット周辺。2カ月近い入院で、置いてあるグッズ類も増えています。
そこへもってきて、ちょこちょこ荷物を持ち込もうとする私に「また何か買ってきたの?」と呆れ顔の夫。電気シェーバーを「ジャーン!」と言って見せたら、「あのさ、抗がん剤中はヒゲなんて剃らねぇし……あなた、何か買いたかっただけでしょ?」
………チーン!完全に見透かされています。
ストレスや不安が重なると買い物をしてしまう、買い物依存症の方の気持ち、少しわかった気がしました。

さて、いよいよFOLFIRINOX第1回目の投与日は、2015年4月22日(水)に決まって、担当医の先生から「抗がん剤前に気分転換でもどーよ」と外出許可も出していただきました。

しかし、それを聞いたのは当日の午前中。いつものように寝たのが朝方でしたので、「うん?何か鳴ってる…」とLINEの着信音に起こされました。

私がまだ寝ていることをわかっている夫の必死さが伝わってきます(笑)

それに、夫が入院している間に、いつにも増して部屋はぐちゃぐちゃ。今まで夫が座っている席にも、書類や本がどーんと積まれている状態。ええ、白状すると私は俗にいう「片付けられない女」なんです(汗)
「外泊してきてもいいよ」ということでしたが、とてもじゃないですけど病人を受け入れられる衛生環境ではありません。
こんな環境で寝たら病状が悪化するわ、と18日の土曜日も夜は病院で過ごしてもらって、翌日の19日も迎えにいきました。

夫にとって、約40日振りのシャバ(笑)
無精ひげも伸びています。私が、買ってきた電気シェーバーは箱に入ったままで役立たずですが、ま、いっか。
「あそこの蕎麦が食いたい」という夫のリクエストにお応えして、お昼はご近所のお蕎麦屋さんに行きました。
このお蕎麦屋さんは古民家風の佇まい。庭を眺めながらゆったり過ごせる場所で、9割蕎麦をいただける以前からお気に入りのお店です。

食後は、以前から気になっていたカフェで、これまたのんびり過ごしました。
担当医の先生からは、「刺身や寿司とか、生モノ以外だったら何を食べてもいいよ」と言われています。大好きなコーヒーとケーキ、もう好きなもの何でも食べてよ、そんな気分です。

家に着いた夫は、いつもの定位置にどかっと座って、ひたすらテレビ(笑)入院の間に録画していた番組をひたすら観ていました。そして、「夜は何を食べたい?」と聞くと、「醤油ラーメン」とのこと。「ええええ!?せっかくの外出許可なのに、ラーメン?もう少し、いいもの食べたら?」と言っても「ラーメンがいい」と頑なです。

もしかしたら、私の作る手間を考えてくれたのかもしれません。それに、夫の入院以来、私自身ロクなものを食べていなかったので冷蔵庫の中もすっからかん。いつも行っているスーパーにも久しぶりに行って、夫の好きなものをしこたま購入。もちろん、すぐに食べられる簡単なものばかり(笑)

でも、こうしてテレビを観ながらふたりでゴハンを食べられるのは40日ぶり。何か特別な会話があったわけではないですが、「普通のことって幸せなことなんだな」と実感したのでした。